昔は「女は結婚したら家庭に入り、子供を産んで育てるのが当たり前」「女性が外で働きながら子供を育てるなどありえない」という考えや価値観が根強くありました。
しかし現代では結婚しても子供を出産しても働きたい女性、子育てに関わりたい男性が増え、同時にそうした人たちをサポートする法整備が進んできました。そのうちの一つに育休(育児休業)があります。
本記事では育休について解説いたします。
育休とは?
育休(育児休業、以下育休)とは、育児と仕事を両立できるように、法律で規定された制度です。育児・介護休業法の他、労働基準法第67条(「生後満一年に達しない生児を育てる女性は、第三十四条の休憩時間のほか、一日二回各々少なくとも三十分、その生児を育てるための時間を請求することができる。」)でも定められています。日雇い労働者やフリーランス、個人事業主の方を除く労働者で養育している1歳未満の子がいれば、性別を問わず誰でも事業主に申し出ることで育児休業を取得可能です。
育児休業の対象となる子は、実子・養子を問わず労働者と法律上の親子関係があること、特別養子縁組の監護期間中の子や、養子縁組里親に委託されている子などを養育する場合などです。
契約社員・派遣社員・パート社員といった期間雇用者の場合、「子が1歳6か月に達する日までに、労働契約(更新される場合には、更新後の契約)の期間が満了することが明らかでないこと(※)」という要件を満たせば育児休業を取得可能です。以前は前述に加えて「同一の事業主に引き続き1年以上雇用されていること」も要件としてありましたが、2022年4月の法改正により撤廃され、より育児休業を取得しやすくなりました。
ちなみに育児休業とよく似た言葉に育児休暇というものがありますが、育児休暇は企業内制度で、対象者や期間が企業ごとに異なるのに対し、育児休業は全ての労働者が対象であり期間も子供が1歳になるまでとしていて、法律で明確に規定されている点が相違点です。
(※)「労働契約(更新される場合には、更新後の契約)の期間が満了することが明らかでないこと」とは、育休を事業主に申し出た時点で、事業主との間で交わしている契約期間が満了すること、かつ更新がないことが確実でないことを指す。口頭で事業主から更新のないことを通達されていても、他の従業員の方の更新状況などから判断されるケースも。
産休との違いは?
産休は、雇用形態にかかわらず、妊娠中の女性の労働者が出産前後に取得できる休業(産前休業・産後休業)を指します。産前休業は申請が必要で、産後休業は出産後8週間は働くことが禁止されています。一方育休は、8週間の産後休業の後、1歳になる前日まで取得可能な休業です。出産した女性はもちろん、その配偶者も取得できます。
パパ・ママ育休プラスとは?
パパ・ママ育休プラスとは、両親揃って育児休業を取得する場合、一定の要件を満たせば、子供が1歳2か月になるまで育児休業が延長される制度です。要件は以下の通りです。
<要件>
(1)子供が1歳に達するまでに、配偶者が育児休業を取得していること
(2)本人の育児休業開始予定日が、子供の1歳の誕生日以前であること
(3)本人の育児休業開始予定日は、配偶者がしている育児休業の初日以降であること
また、2022年に改正された育児・介護休業法には「産後パパ制度」を新設。育児休業制度とは別に取得可能で、子供が生まれた後8週間以内であれば最大4週間まで取得可能です。申出期限についても、原則として1か月前までとされている育児休業制度と異なって休業の2週間前まで(ただし、労働者と事業主間で定めた場合は、1か月前まで)となっています。
育休の取得期間と手当
育休の取得期間は原則、「生まれた子供が1歳に達する日まで」の1年間です。1年間育児休業を取得したい場合、育児休業を開始しようとする日の1か月前までに、また、育児休業期間を延長したい場合、2週間前までにそれぞれ事業主に申し出なければいけません。その場合、育児休業給付金の支給期間も延長されます。
子供が1歳になろうとしているとき:1歳6か月を限度に育児休業を延長可能
※子供の1歳の誕生日の前日に、父母のどちらかが育児休業中であること
子供が1歳6か月を迎えようとしているとき:2歳になるまで育児休業を再延長可能
ただし、以下の(1)~(6)の「特別の事情」が生じた場合には、1週間前の申し出で取得できます。
(1)出産予定日前に子が生まれたとき
(2)配偶者が亡くなったとき
(3)配偶者が病気、ケガにより養育が困難になったとき
(4)配偶者が子と同居しなくなったとき
(5)子が負傷、疾病または心身の障害により2週間以上の世話が必要なとき
(6)保育園に申請しても入園できなかったとき
期間雇用者の場合、1歳になろうとしている時点での育休期間延長要件は雇用期間の定めのない労働者と同じですが、1歳6か月を迎えようとしている時点での育休期間延長要件は、上記に加えて「子が2歳に達する日までに労働契約(更新される場合には、更新後の契約)の期間が満了することが明らかでないこと」という要件を満たすことが必須です。
育児休業給付金
育児休業給付金は、雇用保険の被保険者の方が1歳未満の子を養育するために育休を取得した上で一定の要件を満たすと、雇用保険から支給されるお金です。保育施設に空きがなく、入所できないなどの理由から、子供が1歳を迎える日以後の期間に育児休業を取得する場合は、1歳6か月または2歳を迎える日前まで育児休業給付金の支給対象となります。
支給要件は以下の通りです。
- 1歳未満の子を養育するために、育児休業を取得した被保険者であること(2回まで分割取得可)。
- 育児休業を開始した日の前から数えて2年間で、賃金が支払われた日数が11日以上ある(ない場合は就業した時間数が80時間以上の)月が1年以上あること。1年なくても、第1子の育児休業や本人の疾病等により、引き続き30日以上賃金の支払いを受けられなかった期間があれば受給要件が緩和され、支給要件を満たす場合があります。
- 支給単位期間中(支給単位期間とは、育児休業を開始した日から起算した1か月ごとの期間(その1か月の間に育児休業終了日を含む場合はその育児休業終了日までの期間)をいう)の就業日数が10日以下または就業した時間数が80時間以下であること。
有期雇用労働者の場合、上記の要件に加え、子供が1歳6か月(1歳6か月後の期間について育児休業を取得する場合は、1歳6か月の休業開始時において2歳)までの間に労働契約の期間が満了することが明らかでないことが必要です。
支給額は、休業開始後6か月間の場合、産休育休が始まる前に働いていたときの賃金の67%、休業開始から6か月経過後は50%です。ただし、支給額には上限があり、毎年8月に更新されます。令和4年度の場合は次のようになっています。
<支給限度額※月額>
- (支給率 67%) 301,902円 → 305,319円
- (支給率 50%) 225,300円 → 227,850円
育休後の復帰について
育休が明けて「早くバリバリ働きたい」と思っても、子供が小さいうちは体調を崩しやすく、出産後の体も出産前とは全く異なるため、出産前のように思い通りにならないことが多くあります。
まずは復帰前に社内規定や時短勤務の有無を確認しましょう。大半の企業では面談の機会を設けます。事業主や上司から確認されるのは以下の項目です。
- 時短勤務の利用の有無と期間
- 残業、出張、休日出勤は可能か?
- 家族の協力は得られるか?
- 保育園の送迎時間、送迎者
- 子供が病気の際の対処方法
面談のときに、産休育休中の職場環境や職務内容の変更の有無などをしっかり確認しましょう。
また、復職すると育児と家事、仕事をこなす多忙な生活になります。育児に専念できていた頃とは生活リズムも大きく変わります。復帰後を想定し、生活リズムを整えてみたり家事の時短化を図ってみたりといった準備をしておくとよいでしょう。それから、復帰には配偶者の協力が不可欠です。子供が体調を崩したときのお迎えや休暇取得、日々の家事負担など、配偶者とよく相談して決めておきましょう。
まとめ
育休は、フリーランスや個人事業主には適用されない制度で、企業で働く全ての労働者と子供を守るため、労働者がスムーズに仕事と家庭を両立できるために設けられています。育休だけでなく育休中に得られる一時金や育休を取得できる日数など、出産・育児で受けられる公的制度を把握し、上手に利用していきましょう。