人の集中力には限界があります。仕事や勉強に取り組んでいても、時間が長くなるにつれてふと集中力が切れてしまうことは、誰しも経験したことがあるでしょう。2017年に東京大学薬学部の池谷裕二教授が株式会社ベネッセコーポレーションと共同で発表した研究によると、60分学習していたグループよりも15分おきに7分半休憩を取るというサイクルを繰り返したグループの方が、より集中して勉強できていることが明らかとなりました。
これと近いもので、既に30年ほど前から職種や業種を問わず世界中でいろいろな人が実践しているのが「ポモドーロテクニック」です。予め決めたタスクを短時間で取り組んだ後、短い休憩を取るという方法で、きちんと取り組むことで集中力や時間管理スキルの向上が期待できます。
今回は、ポモドーロテクニックの実践方法、効果、使用シーンなどについて解説します。
ポモドーロテクニックとは
ポモドーロテクニック(Pomodoro® Technique)とは、イタリアのコンサルタントで実業家のフランチェスコ・シリロ(Francesco Cirillo)氏が1987年に考案した、時間管理方法です。当時大学生で、テスト勉強になかなか集中できなかったため、トマト(=イタリア語でポモドーロ)型のキッチンタイマーを使ったところ、それが鳴るまでの間勉強に集中できることに気づきました。フランチェスコ・シリロ氏は研究を重ね、「25分作業+5分休憩」を1ポモドーロとして、このサイクルを守れば、人は集中力を維持しつつパフォーマンスを発揮できるという結論を導き出しました。
ポモドーロテクニックのノウハウはシリロ氏シリロ氏のホームページで公開されている他、イタリア語や英語、日本語などの言語で書籍化され、現在、世界中のビジネスパーソンやクリエイターが実践しています。
ポモドーロテクニックの効果
ポモドーロテクニックを身につけると、どんな効果があるのでしょうか。
集中する習慣が身につく
25分という時間の中で取り組むタスクを決めているので、決めたタスクを完遂しようとする意識が良い意味でプレッシャーとなり、他のタスクを考えることなく作業に集中する習慣が身につき、集中力の維持や向上が期待できます。
モチベーションアップ
時間内にタスクを完了させた後少し休憩するというポモドーロテクニックのサイクルは、「もっとできるはず」「やらなきゃいけない」などと、無意識に自分自身にかけているプレッシャーから解放し、頭の中でオンとオフの切り替えが上手にできるようになります。また、時間が決まっているので、タスクに取り組むためのモチベーションも高まります。
作業にかかる時間の目処が把握しやすくなる
ポモドーロテクニックでは、タスクをこなすときにタスク管理シートやアプリを使います。慣れてくると、タスク完了までに平均してかかる時間や、一度にこなせる作業量、作業にかかる時間の目処が視覚でも把握できます。また、タスクの内容に合わせてタイムスケジュールを立てるスキルも上達します。
ポモドーロテクニックが使えるシーン
ポモドーロテクニックは、日常生活のあらゆる場面で活用できます。具体的な例をご紹介します。
資料作成
会議・プレゼンで使う資料作成を依頼されることが多い事務職の人にとって、ポモドーロテクニックはおすすめです。
資料を作成していると、どのデザインにしようかと迷ったり、デザインを工夫するためにフォントや飾りなどに凝ってみたり、どんな文言を入れようか悩んだりして、時間がかかってしまいがちです。ポモドーロテクニックを使うことで「○ポモドーロまでに資料作成を終わらせる」と時間の意識が芽生え、時間あたりの資料作成の生産性もアップします。
掃除・料理後の片付け
家事は日常生活を送る上では必要不可欠な仕事です。なかでも掃除や料理後の片付けは、取り掛からなければいけないと分かっているのに、つい後回しにしがちな家事と言ってもいいでしょう。
掃除を思い立ったときやご飯を食べた後にタイマーをセットする習慣がつけば、「今から25分以内にあれとこれを終わらせよう」と行動するようになり、家での自由時間も確保できます。
資格取得やスキルアップのための勉強
資格取得やスキルアップのために勉強するときも、ポモドーロテクニックを活用可能です。問題集の項目をリスト化することで、「今日はここからここまで取り組もう」と予定が立てやすくなります。
また勉強の結果を記録するため、勉強の進捗状況を把握できる上「ここまで頑張った」という充足感が得られ、次の勉強へのモチベーションにもつながります。
ポモドーロテクニックの実践方法
ここではポモドーロテクニックの実践方法を、順を追って解説します。
1.やるべきことを決める
まずは、取り掛かるべきタスクを決めます。複数あればチェックリストを作って、優先順位が高いタスクからでも、取り掛かりやすそうなタスクからでも構いません。
ここで大切なのは、必ずしも、タスクを完璧に25分以内で終わらせないといけないわけではないこと、大きなタスクから取り組むのではなく、25分間集中して取り組めそうなタスクから始めてみることです。「25分間で、何をどこまで取り組むのか」が、ポモドーロテクニックの基本であるといえます。
2.タイマーを25分に設定する
時計やポモドーロテクニック専用のアプリ、スマートフォンのタイマー機能などを25分に設定しましょう。フランチェスコ・シリロ氏のサイトによると、ここで「今からのタスクに25分しっかり集中する」と自分自身に誓いを立てる、とあります。
3.タイマーが鳴るまで、タスクに取り組む
タイマーが鳴るまで、あらかじめ決めておいたタスクに集中しましょう。後で別のタスクに気づいても、メモをして一旦脇に置きましょう。
4.タイマーが鳴ったら、リストに記録する
タイマーが鳴ったら、作業は終了です。ひとまず手を止めて、作業の進捗状況をTodoリストなどに記録します。
5.5分休憩を取る
25分集中したら、5分休憩しましょう。コーヒーや紅茶を飲んだり、おやつを食べたり、軽く体を動かしたりして、リラックスしましょう。2〜5までを1つのサイクル(1ポモドーロ)とし、これを4回繰り返します。
6.4ポモドーロごとに、少し長めの休憩を取る
10分でも20分でもいいので、少し長めに休憩を取ります。その後、他にもタスクがあれば2~5までのサイクルを繰り返します。
ポモドーロテクニックの実践を助けてくれるツール
フランチェスコ・シリロ氏は、ポモドーロテクニックについて記した著書や自身のWebサイトの中で、「ポモドーロテクニックに必要なのは次の2つである」と述べています。
タイマー
タイマーは、ポモドーロテクニックを実践する上で必要不可欠なツールです。キッチンタイマーやタイマー機能つき腕時計、スマートウォッチ、スマートフォンのタイマーアプリの他に、タイマーの音が鳴らせない環境下で実践する場合、光やバイブレーション、アラート表示などの機能があるタイマーが使えます。
各種シート類
ポモドーロテクニックでは、次の3種類のシートを使用します。
● 在庫シート:現在抱えているタスク、期限や優先度、見積もり時間を全て書き込んだ管理シート
● Todoシート:1からその日取り掛かるべきタスクをピックアップし、優先順位、見積もり時間を記録したシート
● 記録シート:実行したタスクとかかったポモドーロ数、見積もり時間と実際にかかった時間の差、突発的な作業が割り込んだ時間を記録するシート
ポモドーロテクニックが誕生して30年以上が経過した現在、タイマーとシート類が1つになったアプリやブラウザツールが数多くリリースされています。その中からいくつかご紹介します。
Focus To-Do
Focus To-Do(フォーカストゥードゥー)は、タイマー機能とTodoリストを組み合わせたアプリです。一部の機能以外は無料で使えます。Chromeのみブラウザ拡張機能があり、アカウント1つでパソコンとスマートフォン、タブレット、ウェアラブル端末からでもアクセス可能で、デバイスごとにアカウントを作成する必要はありません。使う人の好みに応じて自由に選べるのが、このアプリの魅力です。
Pomodoro Timer
Pomodoro Timer(ポモドーロ・タイマー)は、シリロ氏がホームページで公開しているブラウザツールです。タスクを登録してから時間を計測するシンプルなツールなので、とりあえず使ってみたい初心者におすすめです。パソコンやスマートフォンから利用可能で、右側のメニューボタンからはタイマー終了音のボリュームも調整できます。
Pomodoro Tracker
Pomodoro Tracker(ポモドーロトラッカー)は、ポモドーロテクニックを実践するためのブラウザツールです。「25:00」のタイマー表示の下にある「開始」ボタンをクリックするとタイマー機能が作動します。また「TODO」にカテゴリと簡単な説明を入力し、「+」ボタンをクリックすると、終了予定時間と何回目のポモドーロなのかを表示してくれます。設定画面では、パーソナルまたは仕事を選択できるほか、テーマや言語などカスタマイズ可能です。ブラウザ以外にもMacとWindowsで使えるソフトもあります。
まとめ
人が1日のなかで使える時間には限りがあります。限られた時間を有効に活用するためにポモドーロテクニックは、有効なテクニックです。今までダラダラと何となく取り組んでいたことを、ポモドーロテクニックを採り入れることでメリハリが生まれ、仕事や家事、勉強が捗るようになります。
なかなか集中力が続かずに悩んでいる方、時間に追われてなかなかタスクが片付かない方は、ぜひ今日からポモドーロテクニックを試してみてはいかがでしょうか。