本記事では「生成AI時代の検索エンジン活用術」シリーズの第5回として、検索AIエージェントについて解説します。現代において、情報収集の方法は検索エンジンだけではありません。さまざまな手段がある中でも、最近は検索AIエージェントの精度がどんどん高まっています。従来必要だった、いくつもの情報源をたどり、分析・比較して、まとめて…といった手続きを、検索AIエージェントが全て行ってくれるのです。そんな検索AIエージェントについて、「Deep Research」と「DeepSearch」を取り上げて紹介します。

従来の検索と検索AIエージェントの違い

従来の検索エンジンでは、キーワードを入力し、関連するウェブページの一覧を取得して自分で一つひとつ確認する必要がありました。

検索AIエージェントはその作業を全て自動で行ってくれます。複数の情報源を読み込んで要点をまとめ、構造化された回答を作成してくれるのです。さらに、その際にリサーチ計画を立ててウェブ上から関連情報を集め、事実関係の確認や問題の分解まで行ってくれます。

もちろん、最終的な正確さの判断には人によるチェックが必要です​。しかし、情報過多の現代において、検索AIエージェントは必要な情報をフィルタリングし、必要な文脈まで校了したうえで回答を作成してくれるため、情報収集において強力なパートナーとなりえます。

OpenAIの「Deep Research」とは?

OpenAIは2025年2月にChatGPTに「Deep Research」を新しく搭載しました​。一度のDeep Researchの実行で数百件ものオンラインの情報源を読み込み、情報分析を行ったうえで、出典(引用)付きの回答を作成してくれます​。回答には記載に紐づくソースも提示されており、必要に応じてそのまま利用できるほど高いクオリティです​。

従来のChatGPTの即答のチャットとは異なり、Deep Researchでは回答までに数分〜30分程度の時間をかけてじっくり調査が行われます​。その間、ChatGPTは検索キーワードを工夫しながら関連ページを次々と読み込み、「有用な情報か判断 → 必要に応じて深掘り → 情報を要約・保存」というステップを繰り返すのです​。

利用条件と制限

現在、ChatGPTのDeep Research機能は有料プランで利用することができます。ChatGPT Plus(月額約20ドル)の加入者は月に10回まで、ChatGPT Pro(月額約200ドル)プランは月120回までDeep Researchを実行できます​。

なお、Deep Researchは処理に時間がかかるため、一度に実行できるのは1タスクのみで、実行中は別の質問を投げることができません。

実例と性能評価

AIの知識レベルと推論能力を評価するテスト「Humanity’s Last Exam」をDeep Researchで行ったところ、正答率が26.6%を記録したといいます。その他のAIのモデルでは半数以上が10%未満であり、Deep Researchは圧倒的に性能が高いことが分かります。

また、現実世界の複雑な課題を扱うテスト「GAIA」では、正答率が約63.6%から72.6%に向上したとの報告もあり、短時間で高度な解析ができることが明らかになっています。

ただし、OpenAIは「信頼できる情報と噂を区別するのが難しい可能性がある」「現状では信頼性の調整に弱点があり、不確実性を正確に伝えることができていないことが多い」といった課題を挙げており、全てを鵜呑みにしないことがやはり重要です。

参考:

Taskjub「OpenAIのDeep Researchとは?性能・特徴・注意点を使いながら徹底解説」
https://taskhub.jp/useful/what-is-deepresearch/

WIRED「OpenAI’s Deep Research Agent Is Coming for White-Collar Work」
https://www.wired.com/story/openais-deep-research-agent-is-coming-for-white-collar-work/

Grokの「DeepSearch」とは?

2023年にイーロン・マスク氏が創設した新興AI企業xAI(エックスエーアイ)は、独自のGPTモデルを搭載したチャットボット「Grok(グロック)」を開発しました​。そこに備わった高度な検索機能が「DeepSearch」です。

DeepSearchはリアルタイムのウェブ検索と強力な推論エンジンを組み合わせたもので、ユーザーの質問に対してインターネット上およびX上から最新の情報をスキャンして回答を生成してくれます​。

利用条件と制限

現在はXのアカウントさえあれば誰でもGrokを利用することができます。ただし、無料の場合は回数制限があり、DeepSearchは24時間に5回程度しか利用できません。もっと多く使いたい場合は有料会員のXプレミアムへの加入が必要です。

Xプラットフォームとの統合メリット

DeepSearchの大きな特徴の一つが、Xと直結している点です。通常の検索エンジンでは拾いづらいリアルタイム情報を組み込みながら、矛盾するデータポイントを推論し、簡潔で引用が豊富な要約を生成してくれます。Xとの統合により、最新のトレンドやニュースを捉えた回答が得られる点は、DeepSearchならではのメリットです。

「Deep Research」vs「DeepSearch」

OpenAIのDeep ResearchとGrokのDeepSearchの機能の違いについて、いくつかの観点でどちらが優れているかを比較してみます。あわせて、どのような使い分けができるかも紹介します。

調査の深さ(分析力)

調査の深さにおいては、Deep Researchが優れていると言えるでしょう。数百件もの情報源をたどり、相互の関係性を考慮して分析・要約したうえでレポートをまとめ上げるため、回答の深さや綿密さは群を抜いています。DeepSearchも高度な推論による回答を返してくれますが、強みは情報の速さ(最新性)にあります。そのため、より深い調査や考察が必要な場合はDeep Researchを使うとよいでしょう。

検索スピード(即時性)

検索スピードにおいては、DeepSearchの方が早い傾向にあります。Grokはリアルタイム検索に特化しており、通常の質問であればほぼ即答、深い検索が必要な場合でも比較的短時間で結果を提示してくれます​。対してDeep Researchは深く調査をするため、回答まで数十分かかることもあります。したがって、スピード重視ならDeepSearch、クオリティ重視ならDeep Researchという使い分けがおすすめです。

料金とコストパフォーマンス

料金やコストパフォーマンス面ではDeepSearchの方が優れていると言えるでしょう。Grokは無料で使い始めることができ、有料のユーザーであっても、プレミアムプランで月1,000円程度、プレミアムプラスでも最大で月約8,000円です。

一方、Deep Researchを使うには最低でもChatGPT Plus(月20ドル程度)の契約が必要で、さらに利用回数も限られます​。より本格的に使おうとするとProプラン(月200ドル)と高額になるため、コストパフォーマンスを重視する場合はDeepSearchの方がよいでしょう。

情報ソースの範囲と網羅性

両者ともウェブ全体を対象に検索しますが、アプローチに若干の違いがあります。Deep Researchは一般的な検索エンジン経由でニュースサイトから論文まで幅広く巡回し、ニッチな情報も掘り出す傾向があります​。一方、DeepSearchはそれに加えてX上のリアルタイム投稿も参照できるため、ソーシャルメディア由来の最新動向に強いという特徴があります。Deep Researchは静的で信頼性の高い情報の深掘りに、DeepSearchは動的で多様な情報源の横断に使い分けるのがよいでしょう。

【実践ガイド】ビジネスシーン別・最適なAI検索ツールの選び

最後に、実際のビジネスシーンでDeep ResearchとDeepSearchをどのように使い分けると効果的か、具体例を挙げながら紹介します。

レポート作成

例えば市場調査や業界分析といったレポートを作る場合、まずはChatGPTのDeep Researchに下調べを任せるとよいでしょう。競合各社の動向や統計データなどを網羅的に集めたレポートを生成してくれるため、自分で一から何十件も記事を読む手間が省けます​。そして、Deep Researchが提示した引用元に目を通しつつ、必要なものを取捨選択してブラッシュアップすることで、質の高い資料を短時間でまとめることができるでしょう。

プレゼン準備

社内やお客様向けのプレゼンテーションの際、最新のニュースや話題を盛り込むことで説得力や信頼性の向上、ほかとの差別化などにつなげることができます。例えば、発表直前に関連業界でニュースが更新されていないか、ターゲット層の声がSNS上で上がっていないか、といったリアルタイム情報のチェックにDeepSearchを活用するとよいでしょう。ただし、引用データを使う際は信頼できる情報源か必ず確認しましょう。特にSNS発の情報は誤りも混在するため、裏付けを取ってから引用する習慣が大切です。

競合調査

自社の競合他社について深く知りたい場合、まずはDeepSearchで表層的な情報収集を行い、その後Deep Researchで深掘りすることで網羅的に情報を集めることができるでしょう。はじめにDeepSearchを使って競合の最新ニュースリリースやSNS上の評判、ユーザーの声などをざっと把握します​。次に、Deep Researchに「〇〇社の過去5年間の戦略と業績の推移を分析して」といった高度な質問を投げます。これらの情報を踏まえて、AIでは知り得ない現場の感覚や業界の事情などの情報も補完するとよいでしょう。

まとめ

はたらく私たちにとって、生成AI時代の検索エージェントはとても心強い助っ人です。いろいろなツールがある中でも、OpenAIのDeep ResearchとGrokのDeepSearchの2つだけでも上手に使いこなせば、情報収集に費やす時間を劇的に削減しつつ、より豊富な知見を得ることができるでしょう。ただし、AIが提供する答えをうのみにするのではなく、提示された引用元などは必ず自分で確認し、文脈を理解した上で判断することが大切です​。

AIはあくまで道具であり、最終的にその情報をどう活かすかは私たち次第です。今回紹介した検索AIエージェントや、これまでのシリーズで紹介してきた検索エンジンも賢く活用し、効率よく適切な情報収集できるスキルを磨いていきましょう。