第1回では、DXを支える「土台」として個人のITリテラシーの向上に必要な用語を紹介しました。

今回はそこからさらに一歩進むために必要な、システム開発に関わる用語を紹介します。組織やチームでどのように「仕組み(=システム)」を作り、動かしていくのかを知るために重要な知識です。

かつてシステム開発には大規模な投資と長い期間が必要でした。しかし「クラウド」の登場により、誰もが柔軟に、そしてスピーディーに仕組みを構築できる時代が到来しました。

本記事では、クラウドの基本から変化に強い開発手法、さらには現場で活用できる改善ツールまでを整理し、DXを推進するための「仕組み作り」のポイントを押さえて解説します。

クラウドサービスの利用形態

クラウド(Cloud)

クラウドとは、インターネット経由でサーバーやサービスを利用できる仕組みです。インターネットさえあれば利用できるため、PCにソフトウェアをダウンロードしたり、サーバーを構築したりする必要はありません。GmailやiCloud、Netflixなどもクラウドサービスで、私たちは既に日常的に使っているものです。

クラウドサービスには、「パブリッククラウド」と「プライベートクラウド」の2つの提供形態があります。パブリッククラウドは、業界や業種、法人・個人を問わずオープンにクラウド環境を提供している形態です。柔軟に拡張可能な環境を誰でも手軽に利用することができます。また、パブリッククラウドのサービスモデルは、提供するサービス範囲によって「IaaS(インフラ基盤)」「PaaS(開発プラットフォーム)」「SaaS(アプリケーション)」の3つに分類されます(後述)。

プライベートクラウドは、自社専用に構築されたクラウド環境のことで、利用するのは特定のユーザーのみです。ほかのユーザーとリソースを共有しないため、外部の影響を受けず、強固なセキュリティのもと柔軟に運用することができます。

なぜ便利?
サーバーなど高価な機器を自社で所有せずに利用できる上、必要な時に必要な分だけ使うことができるから

IaaS (Infrastructure as a Service)

IaaSとはサーバーやネットワークといったITインフラをインターネット経由で利用できる仕組みのことです。AWSやMicrosoft Azureが代表例で、自社Webサイトや業務システムなどの土台として活用されています。

補足すると?
家で例えるなら「土地と基礎」を借りるイメージ。最も自由度が高い反面、専門知識が必要。
物理的なサーバーを購入・管理する手間とコストを削減できる。

PaaS (Platform as a Service)

PaaSとはアプリケーションを開発・実行するための環境(プラットフォーム)を提供するサービスのことです。Google App EngineやMicrosoft Azureなどが代表的で、Webやモバイルのアプリケーション開発などに用いられます。

補足すると?
家で例えるなら「骨組みと壁まで出来た家」を借りるイメージ。開発者はOSやサーバーの管理を気にすることなく、
アプリケーション開発そのものに集中できる。

SaaS (Software as a Service)

SaaSは既に完成しているソフトウェアを、インターネット経由で利用できるサービスのことです。GmailやZoom、Slack、Salesforceなどが身近な例で、Web会議、顧客管理、チャットツール、経費精算など、あらゆる業務で活用されています。

補足すると?
家で例えるなら「家具も全て揃った家」にすぐ住めるイメージ。
利用者はインストールやアップデートの手間なく、常に最新の機能をどこからでも利用できる。

システム開発関連の言葉

アジャイル (Agile)

アジャイルとは「計画」よりも「変化への対応」を重視し、短いサイクルで開発と改善を繰り返す手法や考え方です。料理を味見しながら調整していくように、顧客の声を取り込みながら進められます。新規事業開発やWebサービス開発、業務プロセスの改善などの際に活用されています。

なぜ重要?
市場や顧客のニーズが目まぐるしく変わる現代において、最初に立てた計画に固執せず、柔軟に方向転換しながら顧客価値を最大化する上で不可欠な考え方だから。
2001年の「アジャイルソフトウェア開発宣言」が原点。

スクラム (Scrum)

スクラムとはアジャイル開発を実践するための、世界で最も広く使われている具体的なフレームワーク(手法)の一つです。例えば毎日短い朝礼を行って進捗を確認し、問題があればすぐに対応するように、チームで短い打ち合わせを重ねながら自律的に進める仕組みです。ソフトウェア開発チームや新規サービス開発プロジェクトなどで活用されています。

なぜ重要?
役割やルールが明確に定義されており、
チームが自律的に動き、生産性を高めるための仕組みが整っているため。

WBS (Work Breakdown Structure)

WBSとはプロジェクトの作業内容を階層的に細かく分解した構成図のことです。分解することで、プロジェクト全体を可視化することができます。例えば旅行を計画する際に、「交通」「宿泊」「観光」に分け、さらに「新幹線予約」「ホテル予約」のように具体化していくようなイメージです。システム開発の工程分解やイベント企画のタスクの洗い出しで活用され、作業の抜け漏れを防ぎます。

何をするもの?
プロジェクトで「何をすべきか」を明確にし、作業の抜け漏れを防ぐ。

ガントチャート (Gantt Chart)

ガントチャートとはプロジェクトの各作業を、時系列の棒グラフで表したスケジュール管理表のことです。例えば、夏休みの宿題の計画表や結婚式準備のスケジュール表などが身近な例です。開発やイベントの進行管理に有効で、システム開発のスケジュール管理やマーケティングキャンペーンの工程表などでこの管理表が活用されます。

何をするもの?
全体の進捗状況や作業の依存関係(この作業が終わらないと次へ進めない、など)を視覚的に把握できる。

開発と運用を高速化する技術や用語

DevOps (Development and Operations)

DevOpsとは開発チーム(Dev)と運用チーム(Ops)が密に連携し、システムのリリースサイクルを高速化・自動化する手法や文化のことです。飲食店で調理とホールが密に連携しながらお客様の反応を共有し、メニューやサービスを即座に改善していくようなイメージです。Webサービスの継続的な機能改善やモバイルアプリの頻繁なアップデートなどの際に重要となる手法です。

なぜ重要?
開発して終わりではなく、
顧客からのフィードバックを迅速にサービスに反映し続けることで、競争優位性を保つため。
2009年にFlickr社が発表した「1日10回以上のデプロイ」は、その文化を象徴する有名な事例です。

API (Application Programming Interface)

APIとは異なるソフトウェアやWebサービス同士が連携するための「接続仕様」や「窓口」のことです。飲食店検索サイトにGoogleマップが表示されたり、Webサイトにある「LINEで送る」ボタンを押すとLINEが開いたりするのもこのAPIの仕組みを使っています。仕事においても、自社のシステムに他社の決済機能を組み込んだり、勤怠管理システムと給与計算システムを連携させたりする際に必要となる仕組みです。

何が便利?
ゼロから全てを開発しなくても、
他社の優れたサービスを部品のように組み合わせて、迅速に自社サービスを構築できるため。

システム連携 (System Integration)

システム連携とは複数の異なるシステムを接続し、データや機能を相互活用することです。日常生活においては、銀行のアプリで、複数の系列銀行の口座残高をまとめて表示するといった活用がされています。仕事においては、販売管理システムと在庫管理システムを連携させ、売上と在庫数を自動で同期させる、といった活用が可能です。

なぜ重要?
システム間のデータの二重入力をなくし、業務全体を効率化するため。

ノーコード・ローコード (No-Code/Low-Code)

ノーコード・ローコードとはプログラミング知識がほとんど、あるいは全くなくても、アプリや業務システムを開発できるツールのことです。kintoneやAppSheeなどが代表例です。こうしたツールを活用すると、日報アプリの作成や、簡単な在庫管理システムの構築、各種申請ワークフローの電子化といった仕組みを作ることができます。

なぜ重要?
IT部門に開発を依頼する時間やコストをかけずに、
業務を最もよく知る現場部門が自ら課題をスピーディーに解決できるため。

ワークフロー (Workflow)

ワークフローとは、申請、承認、決裁といった一連の流れを電子化する仕組みです。これにより、経費精算や有給取得、契約書の承認といった申請をする際に、自動的に上長に承認依頼が飛ぶ仕組みを作ることができます。

何をするもの?
業務の流れを標準化し、書類の紛失や承認の遅延・抜け漏れを防ぎ、内部統制を強化する。

まとめ

今回は、クラウド活用から開発手法、運用・改善、現場ツールまで、DXの「仕組み作り」を支える要素を紹介しました。

ただし、仕組みはあくまで「箱」にすぎません。その仕組みの上で何を動かすのかが、DXの核心です。

次回、第3回「DXの『価値』を生み出す データとAIの活用法」では、仕組みに流れる「データ」という血液を、AIという頭脳でどのように価値に変えていくのかを解説します。仕組みの上で何をどう動かしていくのかを考えるために必要な知識となるので、次回も合わせてご覧ください!