「三日坊主で終わってしまう」「立てて終わりになる」「計画通りに進まない」といった経験のある方もいらっしゃるのではないでしょうか。もしかすると、それは自分のせいではなく、実は目標の立て方や進め方が適切ではなかったからかもしれません。というのも、目標の達成には研究による「理論」が存在するのです。今回は、沢山ある中でも11の理論をピックアップしてご紹介します。自分に合いそうなものがあれば、ぜひ試してみてください!
目標を立てる前に知っておきたい「目標設定理論」
目標設定理論とは、明確かつ適切な目標がモチベーションに大きく影響するという理論です。この理論を説いたロックとレイサムは次の結論を導き出しています。
・課題遂行のためには目標設定が必須
・他人から目標を与えられるよりも、困難かつ具体的で明瞭な目標を掲げている個人のほうがパフォーマンスを発揮する可能性が高い
・自発的に目標設定に参加したほうがパフォーマンスを発揮する可能性が高い
・ただし、動機づけとして有効になるのは目標を受容できていることが条件
つまり、課題のための目標には「困難さ」「具体的さ」「自発性」「受容」が必要だとしているのです。これをもとに考えると、目標を設定する際には次のことを意識すると良いと言えます。
・ある程度、達成が難しい目標であること
・目標は明確で具体的であること
・自分の中にモチベーションを持ち、自発的に取り組めるものであること
・目標を達成するために必要な能力が自分の能力を大きく超えておらず、実現可能なものであること
[参考]
- Schooビジネスプラン - 「【目標設定の具体例】個人や組織で効果的な目標設定の手法を解説」
URL:https://schoo.jp/biz/column/1724 - 日本の人事部 - 「目標設定理論とは?現代ビジネスにおける実践と課題」
URL:https://jinjibu.jp/keyword/detl/1454/ - コーチングガイド - 「目標設定理論とは?その効果と応用方法」
URL:https://coaching-guide.jp/column/goal-setting-theory/
自発的に目標に向けて取り組むための「自己決定理論」
自己決定理論は、動機づけ(モチベーション)の理論です。この理論では、ほかの人から言われて行動するに至る動機づけを「外発的動機づけ」、自ら進んで行動するに至る動機づけを「内発的動機づけ」と呼んでいます。例えば「宿題をやりなさい」と言われたからするのが外発的動機付け、「宿題をしよう」と自分で考えたからするのが内発的動機付けです。
「やりなさい」と言われてすることはモチベーションは上がりませんよね。そのため、自ら関心や喜びをもって「やりたい」「楽しい」と思える内発的な動機付けは非常に重要です。この理論では、内発的動機づけと外発的動機づけは対立する概念ではなく、連続しているために変化するとされています。つまり、外発的動機付けを内発的動機付けへと高めることができるのです。
では、どのようにして内発的動機づけを高めればよいのでしょうか。この理論を説いたデシとライアンによれば「自律性、有能性、関連性の3つの心理的欲求が満たされれば、モチベーションとパフォーマンス、精神的健康(ウェルビーイング)が向上する」といいます。
・自律性:誰かから強制されたものではなく、自らの意思で主体的に行動していること
・有能性:自分に能力が十分にあり、他者よりも優れていると感じられること
・関係性:他者から尊敬されることや他者との連帯感があること
これらを高めるには、自分の意思や考えを見つめる時間を作ったり、フィードバックをもらう機会を作ったり、コミュニティに入ってほかの人との関わりを増やしたりすることが考えられます。自分の立場や目標に合わせて、方法を考えてみましょう。
[参考]
- コーチングガイド - 「自己決定理論とは?モチベーションの内的要因を理解する」
URL:https://coaching-guide.jp/column/jikoketteiriron/ - 神戸大学発行資料 - 「いきいき資料第2号」
URL:http://www-2022.h.kobe-u.ac.jp/sites/default/files/general_page/ikiikisiryou_2.pdf - Musubuライブラリ - 「【解説】目標設定の重要性と具体的手法」
URL:https://library.musubu.in/articles/44725 - コアネット - 「目標設定の基本概念と成功事例」
URL:https://core-net.net/keywords/kw022/
できると信じて進む「社会的認知理論」
社会的認知理論とは、人が他者の行動を観察し、その結果を学ぶ過程を説いた理論です。「人(認知、感情、生物学的要素)、環境(社会的環境)、行動は、それぞれ相互に影響を及ぼし合う」という考え方が、この理論の核となっています。
この理論における重要な要素の一つが「自己効力感」です。自己効力感とは、自分がある状況において必要な行動をうまく遂行できると、自分の可能性をどれくらい信じているかを示すものです。簡単に言うと「自分ならできる」と思える自信のことです。例えば、次のようなものが挙げられます。
・自分がある行動についてしっかりとやれるという自信
・自分の行動について自分自身でコントロールできているという信念
・自分が周囲からの期待や要請にきちんと対応できているという確信
この自己効力感が高いほど、実際に遂行できる可能性も高く、困難な課題にも挑戦しやすくなるとされており、勉強やスポーツ、仕事などの様々な場面で大きな影響を及ぼしているといいます。そのため、目標の達成にはとても重要な要素なのです。
[参考]
- A-Output - 「社会的認知理論と自己効力感の関係性」
URL:https://www.a-output.com/social-cognitive-theory-and-self-efficacy - Note(Tomof) - 「社会的認知理論とは?バンデューラの理論解説」
URL:https://note.com/tomof/n/n6179e65d76cd - Yuya San Blog - 「社会的認知理論とは何か?わかりやすく解説」
URL:https://yuya-san.com/social-cognitive-theory/ - Motivation Cloud - 「社会的認知理論の概念と人材開発への応用」
URL:https://www.motivation-cloud.com/hr2048/c240#61023c6c930486021fe90cf6-1677067245324
やる気を行動にするための「計画的行動理論」
人が行動を起こすには、「やるぞ」という意思(行動意思)が必要です。これを説いているのが計画的行動理論です。この理論では、行動意思を引き起こすために影響する要素として次の3つが示されています。
(1)行動への態度:行動に対する気持ち
その行動をすることをよりポジティブなものにすること。行動に対して、メリットを感じると行動意思が生じますが、デメリットを感じると行動意思は生じません。ポジティブなものにするために「その行動によってある結果を招くと信じる」「その結果に対して高い価値を置く」ことの2つが必要とされています。
(2)主観的規範:周囲からの期待に対する気持ち
周りの人から期待されて「期待に応えるために頑張ろう!」と思ったことがある方も多いと思います。このように、周りの期待に応えたいという気持ちになることです。このためには「相手がその行動をすべきだと思っていると感じる」「相手の気持ちに従いたいという気持ちがある」ことが必要とされています。
(3)行動コントロール感:行動することの難しさに対する気持ち
その行動をするのは難しくないと思うことです。そのために「行動に必要な技術や資源を持っている」「それらが行動を簡単にしてくれると思う」ことが必要とされています。
[参考]
- SGS Blog - 「【目標設定理論】目標達成のカギとは?」
URL:https://sgs.liranet.jp/sgs-blog/4784 - Note(generection1) - 「目標設定理論とは?その基本概念と応用方法」
URL:https://note.com/generection1/n/ne3e1506026b8
行動を変化させるための「行動変容ステージモデル」
行動変容ステージモデルとは、人が行動を変えるまでのプロセスを説明したフレームワークです。1980年代前半に禁煙の研究から作られ、食事や運動などへ派生して幅広い研究と実践が進められてきました。目標を立てて実践し、変化していくのに重要な考え方です。このモデルでは人が行動変容に至るまでに、次の5つのステージを通るとしています。
(1)無関心期:6ヶ月以内に行動を変えようと思っていない
(2)関心期:6ヶ月以内に行動を変えようと思っている
(3)準備期:1ヶ月以内に行動を変えようと思っている
(4)実行期:行動を変えて6ヶ月未満である
(5)維持期:行動を変えて6ヶ月以上である
このステージを上がり行動変容を達成するには、自分が今どのステージにいるかを把握し、それぞれのステージで必要な行動をとることが大切です。それぞれのステージで必要とされる働きかけには、次のようなものが挙げられます。
・無関心期:メリットを知る、このままでは「まずい」と思う、周りへの影響を考える
・関心期:行動していない自分をネガティブに、行動している自分をポジティブにイメージする
・準備期:うまく進められるという自信を持ち、行動を始めることを周りの人に宣言する
・実行期と維持期:行動を置き換える、続けるために周りからのサポートを活用する、自分にごほうびを与える、取り組みやすい環境づくりをする
[参考]
- 日本の人事部 - 「行動変容理論とは?行動変容を促進するアプローチ」
URL:https://jinjibu.jp/keyword/detl/1716/ - e-ヘルスネット(厚生労働省) - 「行動変容の理論:健康づくりのための行動科学」
URL:https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/exercise/s-07-001.html
三日坊主にならないための「習慣形成理論」
習慣形成理論とは、習慣は外界からの刺激に対する反応として形成されるため、刺激を繰り返すことで習慣を形成しようという理論です。
人は外から刺激を受けると「やらなきゃ」と考えて行動を起こします。例えば、友達から「最近ダイエット始めたんだ」と聞いて自分も始めたという経験がある方もいるのではないでしょうか。ただ、こうした行動は「やらなきゃ!」と思うというステップをはさむため、心理的な負担が高く一度きりの行動で終わってしまいがちなのです。
一方で、同じ刺激でも「午後5時のチャイムが鳴ったら」「お風呂に入る時に」といった日々のルーティンの中にあるものをきっかけにして行動を反復していると、心理的な負担が徐々に減って、意識をしなくても刺激に対して行動できる「習慣」の状態になります。つまり、習慣を作るためには「刺激されて行動する」を繰り返すことが重要なのです。
そこで、習慣にするために次のような計画を立てると良いとされています。
(1)アクションプラン(行動計画)
毎日の生活の中で「具体的に何をするのか」を決めます。この際に活用できるのが「if-thenルール」という手法です。「も し(if)~の場面/状況になったら、その時は(then)~する」と、行動を起こすきっかけと行動計画とを一緒に考えます。
(2)コーピングプラン(対処計画)
「さぼってしまった場合やできない時にどうするか」という対処計画も一緒に考えておきましょう。それにより、「しないのはまずい」という思いを頭の片隅に置いておくことができます。
[参考]
- 濱田先生の学習ノート - 「習慣形成の科学:成功するための方法と理論」
URL:https://www.hamasensei.com/habit-formation/ - 日本心理学会 - 「習慣形成と行動変容の心理学」
URL:https://psych.or.jp/wp-content/uploads/2024/01/104-28-29.pdf
コツコツ続けるための力「自己制御」
ちょっとした誘惑に負けないよう、思考や行動をコントロールする能力のことで「セルフコントロール」ともいいます。「今やらなくてはならない仕事がある時にスマートフォンを見たい気持ちを抑える」といったケースが例として挙げられます。目標達成に向けてコツコツと行動を継続するため(目標と逆行した行動をとらないための)に重要な力です。
研究者によれば、セルフコントロールの高い人は次のような特徴を持つとされています。
・セルフコントロールの高い人は、短期的な欲望や衝動を抑え、長期的な目標を追求する能力が高い。
・セルフコントロールの高い人は、ネガティブな感情をうまく管理できる。ストレスや不満を感じても、それを不適切な行動に結びつけにくくなる
・セルフコントロールの高い人は、自分の時間や労力を効果的に管理できる。自分の仕事をこなしながら、組織市民行動のような追加的な行動を行う余裕がある
そして、生活の中でセルフコントロールを取り入れていくには次のような方法が挙げられます。
(1)目標をステップごとに細かく設定する
(2)「if-thenルール」で行動を自動化する
(3)達成状況を「見える化」する
(4)誘惑になるものをそばに置かない
つまり、自分の意思を変えようと努力するのではなく、自然と行動できるような環境を整えることが、セルフコントロールにつながるのです。
[参考]
- ビジネスリサーチラボ - 「目標設定理論:組織での活用方法とその効果」
URL:https://www.business-research-lab.com/241105-2/ - 東洋大学 - 「セルフコントロールの理論と実践」
URL:https://www.toyo.ac.jp/link-toyo/business/self_control/
モチベーションを高める「社会的対比理論」
社会的対比理論とは、自分と他者と比較することで自己評価を得るという考え方です。日常でも、周りの人やSNS上の人と能力や容姿、社会的地位、経済状況などを比べがちです。ただ、それを誰と比べるかによって心理状況が変わってきます。
自分よりも望ましい対象と比較することを「上方比較」、自分より優れていない対象と比較することを「下方比較」といいます。
どちらもモチベーションに関係があり、下方比較は、自分に自信がない時に自分より劣った他者と比較することで自信を維持する傾向があります。
一方で、自分を高めたいと思っている時に上方比較をすると、モチベーションを高め、達成への思いがより強まる傾向にあります。例えば、自分よりも優れた人を見て「あの人みたいになりたい」と思うことがそれにあたります。
つまり、成し遂げたい目標に向けて自分を高めたいとき、自分より優れていると思う人と比較をすることはモチベーションの向上につながる可能性があるのです。
[参考]
- Weblio辞書 - 「社会的比較理論の概要」
URL:https://www.weblio.jp/wkpja/content/%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E7%9A%84%E6%AF%94%E8%BC%83%E7%90%86%E8%AB%96_%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E7%9A%84%E6%AF%94%E8%BC%83%E7%90%86%E8%AB%96%E3%81%AE%E6%A6%82%E8%A6%81 - A-Output - 「社会的比較理論とは?その概要と実践」
URL:https://www.a-output.com/social-comparison-theory - スマートハビット - 「学校現場で活用する社会的比較理論」
URL:https://www.smarthabit.net/forschool/blog/0025
2タイプで目標の立て方を変える「制御焦点理論」
制御焦点理論とは、目標追求の観点で人を「促進焦点」「予防焦点」の2タイプに分け、それに合わせて適切に行動することで、望ましい結果を得ることができるという考え方です。
促進焦点とは「希望や夢を達成したいといったポジティブな結果を目指す目標志向性」のことで、予防焦点とは「損失や失敗の回避といったネガティブな結果の回避を目指す目標志向性」のことです。
促進焦点タイプの人はポジティブな結果に着目する傾向にあります。目標達成や進歩、成功への欲求が強く、例えば、周りから好かれることや良い成績を取ることを求めます。一方で防止焦点タイプの人は、ネガティブな結果に着目する傾向にあります。安心や安全への欲求が強く損失や失敗を嫌がり、周りから嫌われることや悪い成績をとることを避けようとします。
これに基づき、促進焦点の人は成功、予防焦点の人は失敗に注目した目標設定をするのが効果的です。例えば「契約を少なくとも3本とってくる」「契約を3本未満にしないようにする」といった形で、目標の表現を変えてみるのが良いでしょう。
[参考]
- Joint Network Magazine - 「クライアントマガジン第5号」
URL:https://www.jointnetwork.net/cliant/magazine/list/issue005h.html - UX Days Tokyo - 「レギュラトリーフォーカス理論(Regulatory Focus Theory)の概要」
URL:https://uxdaystokyo.com/articles/glossary/regulatory-focus-theory/ - リクルートマネジメントソリューションズ - 「インタビュー:人材マネジメントの未来を語る」
URL:https://www.recruit-ms.co.jp/issue/interview/0000001050/
先延ばしにしないための「現在バイアス」
現在バイアスとは、将来の利益よりも現在の利益を重視する心の働きのことです。計画を立てても、いざやろうと思った時に「もう少しだけだらだらしていたい」といったように、目先の利益を優先してしまうことがこの例です。
私たちが何か行動を起こす際には、必ず「意志力(やる気)」を消耗しています。気が進まないことほど多く消費し、ルーティーンワークはあまり消費せずにこなせます。また、重要でないことをするときには意志力をさほど必要としませんが、重大なことをするには意志力が要ります。さらに、意志力は枯渇してしまうものでもあります。
現在バイアスによって未来のことは優先順位が低くなってしまうのに加え、重要なことほど意志力を消費する。それによって私たちは先送りにしてしまうのです。
この仕組みをもとに、先延ばししないための2つの方法を紹介します。
(1)先延ばしした場合の罰をもうけ、やらざるを得ない状況をつくる
(2)意志力がなくても行動を起こせるよう、習慣化することで必要な意志力を少なくする
[参考]
- Study Hacker - 「現在バイアスとは?先延ばしの心理を克服する方法」
URL:https://studyhacker.net/columns/genzai-bias - 島津製作所 - 「ブーメランの部屋 第31回:現在バイアスの正体」
URL:https://www.shimadzu.co.jp/boomerang/31/06.html
習慣化のためにおさえておきたい「実行意図」
実行意図とは、目標を達成するための行動を「具体的にいつ、どこで、どのように行うか」を決めることです。目標があっても、具体的な行動計画がなければ目標の達成は難しいもの。そこで、行動とそのトリガーを決めておくことで習慣化するのがこの考えです。
さらに、漠然とした目標を掲げるだけでなく、行動を具体的にすることで達成する確率が高くなるという研究結果があります。例えば「朝ごはんの時」ではなく「朝ごはんの席に着いた時」や、「風呂に入る時」ではなく「湯船につかった時」などより具体的にトリガーを決めましょう。
ここで活用できるのが「習慣形成理論」で紹介した「if-thenルール」です。「~したら○○する」、「いつ」「何を」するかをはっきりと決めておきます。これを決めておくと、実行できる確率は2~3倍にも高くなると言われています。するべきことを明確にしておくことで、意識しなくても行動すべきときに自動的に行動できるよう習慣化しましょう。
[参考]
- Mind Read - 「もし〜ならば計画法の効果と応用例」
URL:https://mind-read.info/archives/7874 - Note(sumisonian) - 「目標達成を助ける『もし〜ならば計画法』の活用方法」
URL:https://note.com/sumisonian/n/n58b6c93fad38 - Task Management Compilation - 「キーワード解説:もし〜ならば計画法」
URL:https://task-management-compilation.com/keywords_ifthenplanning/
まとめ
目標達成のために知っておきたい11の理論をご紹介しました。1つだけでも使えるものもあれば、かけあわせで使えるものもあります。目標は、立てることまではできても、実際に達成するためには継続や努力が必要で、決して楽ではありません。それを少しでも楽に、効率よくできるのがこうした理論です。多くの人が壁にぶつかってきたからこそ、これだけたくさんの研究が100年以上も前から行われてきました。今度こそ目標を達成するため、先人たちの知恵を借りてみませんか?どれも明日からできるものばかりなので、ぜひ試してみてください。