「ゼロから学ぶDXの基礎知識」シリーズの第2回では、仕組みを作り動かす「システム開発」に関わる基本用語を解説しました。
https://www.hataraku-recipe.jp/_ct/17791023
DXの「土台」と「仕組み」が整ったら、次はいよいよビジネスの競争力を左右する「価値」を生み出すステージです。
現代において、その価値の源泉となるのが「データ」であり、その力を最大化する強力なツールが「AI」です。
単なる情報の集まりを、どうすれば意思決定に役立つ“洞察”へと変えられるのか。本記事ではそのプロセスと技術、そしてAIと上手に付き合っていくために必要な知識を解説します。
データを価値に変えるプロセス
ビッグデータ(Big Data)
ビッグデータとは、従来の技術では扱いきれないほど膨大で多様なデータ群のことです。SNSに投稿される世界中のつぶやきや、YouTubeの視聴履歴、スマホの位置情報などがその例です。
企業はこうしたデータを分析することで顧客行動を分析・把握したり、市場のトレンドを予測したり、サプライチェーンを最適化したりします。経験や勘では見えない新たな気づきを生む、まさにDXの宝庫といえる存在です。
なぜ重要? 人間の経験や勘だけでは見つけられなかった新たなインサイトを発見する源泉だから。 例えばNetflixは視聴データを分析し、大ヒットドラマ『ハウス・オブ・カード 野望の階段』を制作。 |
データベース(Database)
データベースとは、大量の情報を体系的に整理し、効率的に検索・管理できるシステムです。図書館の蔵書検索やスマートフォンの電話帳、音楽アプリの楽曲リストも身近なデータベースです。仕事では顧客情報管理(CRM)や在庫管理、人事情報管理などに使われます。雑多なデータもデータベースに整理すれば、必要な情報をすぐに取り出せます。
なぜ重要? あらゆるデータを活用するための、 いわば「整理棚」の役割を果たし、必要な情報に素早くアクセスできるようにするため。 |
データ分析(Data Analysis)
データ分析とは、集めたデータを統計的な手法などで処理し、有用な情報や知見を抽出することです。家計簿アプリでの支出の傾向や、健康アプリでの運動量の分析も身近な例です。ビジネスでは売上データからトレンドを読み解いたり、顧客アンケートを分析して改善点を探したり、Webサイトのアクセス解析をしたりといった場面で活用されています。
何をするもの? 「なぜ売上が下がったのか?」といった原因を客観的に把握し、 次の打ち手を考えるための根拠を見つける活動。 |
データクレンジング(Data Cleansing)
データクレンジングとは、データの重複や誤り、表記のゆれなどを修正し、品質を高める作業です。年賀状の住所録を整理して重複を消したり、古い住所を更新したりするのも一種のクレンジングです。会社では顧客データの統一や商品名の表記揺れの修正、入力ミスのあるデータの修正などが行われます。
なぜ重要? 分析の元となるデータが汚れていると、誤った分析結果を導いてしまうため。精度の高い分析を行うための、非常に重要な「地ならし」の工程。 |
可視化(Data Visualization)
可視化とは、数字のデータをグラフや図にして、目で見て直感的にわかりやすく表現することです。家計簿アプリの支出の円グラフや天気予報の気温推移グラフ、選挙速報の議席マップもその例です。複雑なデータを誰もがすぐ理解できる形にできるため、売上推移をグラフにしたり、顧客分析をチャート化して会議で共有したりと、仕事においても様々なシーンで活用されています。
何がメリット? 複雑なデータや大量の数値も直感的に理解できるようになり、関係者との合意形成を円滑にするため。 |
ビジネスの「今」を捉える技術
ダッシュボード(Dashboard)
ダッシュボードとは、重要な情報やデータをひとつの画面にまとめて表示する仕組みです。自動車の運転席のメーターやスマートフォンのホーム画面、健康アプリのサマリー画面もその例です。ビジネスでは売上速報のモニタリングやプロジェクト進捗をまとめた画面、Webサイトのアクセス状況のリアルタイム表示などに使われ、現在の状況を一目で把握することができます。
何が便利? ビジネスの「今」の状況を一目で把握でき、問題の早期発見や迅速な意思決定を可能にするため。 |
IoT(Internet of Things)
IoTとは、家電や自動車、工場の機械など身の回りのあらゆるものをインターネットに接続する技術のことです。スマートスピーカーやApple Watch、外出先から操作できるエアコンが身近な例です。ビジネスでは工場の機械を遠隔で監視したり、物流トラックの位置情報を把握したり、オフィスの環境管理をするのに活用されています。
なぜ重要? 現実世界の様々なデータをリアルタイムで収集し、 分析することで、新たな価値やサービスを生み出す源泉となるため。 |
AIと機械学習の基本
AI(Artificial Intelligence)
AIとは、人間の知的活動(学習、推論、判断など)をコンピュータで再現する技術の総称です。スマートフォンの顔認証やSiri、Googleアシスタント、写真の自動分類もAIの例です。ビジネスでは顧客対応の自動化や製品の異常検知、データ分析の高度化などに活用されています。AIは人間では難しい膨大な処理を高速かつ正確にこなすため、これからのDXを支える大きな原動力になります。
なぜ重要? 大量のデータ処理や複雑なパターンの認識など、人間には難しいタスクを高速かつ正確に実行できるため。 |
機械学習(Machine Learning)
機械学習とは、AIを実現する代表的な手法で、コンピュータが大量のデータから自動的にパターンを見つけ出し、予測や分類の能力を獲得することです。迷惑メールの自動振り分けやECサイトのおすすめ機能、クレジットカードの不正検知は身近な例です。ビジネスでも需要予測や顧客の離反予測、品質管理などに応用され、AIが学び、成長する仕組みを支えています。
なぜ重要? 人間がルールを教えなくても、 データの中から自ら法則性を見つけ出し、賢くなることができるため。 |
LLM(Large Language Model)
LLMとは、大量のテキストデータを学習して言語を理解・生成できるAIモデルのことです。ChatGPTやGoogle Gemini、Claudeなどが代表的です。仕事では文書作成や翻訳、要約、顧客対応の自動化、社内情報検索など幅広く利用されています。
何が便利? 人間と自然な対話ができ、複雑な文章の作成や要約、アイデア出しなど、 知的生産活動を幅広くサポートしてくれるため。 |
AIを実践で使いこなす知識
生成AI(Generative AI)
生成AIとは、文章や画像、音声、プログラムコードなどを自動で生み出すAIです。ChatGPTやMidjourney、GitHub Copilotが代表例です。企画書のたたき台やプレゼンの構成案出し、メール文作成、議事録の要約などに役立ちます。企業でも活用が進み、例えばセブン‐イレブン・ジャパンでは、店舗運営の効率化と商品供給の安定化のために、AI発注システムが全店舗で導入されています。
何が便利? 創造的な作業の強力なアシスタントとなり、生産性を飛躍的に向上させることができる。 |
ハルシネーション(Hallucination)
ハルシネーションとは、生成AIが事実でない誤った情報を、あたかも事実であるかのように出力してしまう現象です。「幻覚」とも呼ばれ、存在しない歴史上の出来事や論文を答えてしまうことがあります。仕事で利用する際は、AIが出した情報の裏取りや根拠の確認が欠かせません。
なぜ問題? AIの回答を鵜呑みにしてしまうと、誤った情報に基づいて業務を進め、 大きな問題に繋がる可能性があるため。 |
チャットボット(Chat Bot)
チャットボットとは、ユーザーとテキストや音声で自動で会話するプログラムです。ネット通販の問い合わせや銀行のオンライン相談、宅配便の再配達受付などがその例です。ビジネスにおいては、顧客からの定型的な問い合わせへの24時間365日対応や、社内の情報システム部門へのFAQ対応などで活用されています。
何が便利? 簡単な問い合わせは自動化し、人間はより複雑で重要な業務に集中できるようになるため。 |
PC作業を自動化するRPA
自動化(Automation)
自動化とは、それまで人が行っていた作業をコンピュータやロボットが代替することです。洗濯機の自動運転や自動改札機、工場のロボットもその一例です。ビジネスではデータ入力やレポート作成、承認プロセスの自動化に利用されています。
何が便利? 生産性を向上させると同時に、人間が起こしがちな単純なミスを防ぐことができるため。 |
RPA(Robotic Process Automation)
RPAとは、PC上の定型作業(データ入力、複数システム間のコピー&ペースト、集計作業など)をソフトウェアロボットが記録・再現する技術です。例えば、交通費精算で経路検索結果を自動入力するのもRPAです。仕事においては、売上集計や請求書作成、競合情報の収集などに活用されています。
何が便利? 特に複数のシステムをまたがるような、単純で退屈な繰り返し作業を完全に自動化し、 従業員をより創造的な仕事に解放するため。 |
まとめ
今回は、データとAIを活用することで、ビジネスに新しい「価値」を生み出すための基礎知識を紹介しました。
しかし、せっかく生み出した価値も、顧客に届きビジネスとして成功しなければ意味がありません。
最終回・第4回では「DXを『ビジネス』に繋げる」をテーマに、価値をどう届け、持続可能なビジネスモデルへと育てていくのかというDXの最終ゴールを学びます。
次回も是非ご覧ください!