「舞台は生もの。1日として同じ日はない」――。上演にあたり、ある舞台のパンフレットに掲載されていたインタビューの中に書かれていた言葉です。またある俳優は「初演から年月が経ち、自分の年齢も上がった。初演と2回めの公演のときにはできなかった表現に挑戦したい」と、意気込みを語っていました。舞台で同じ役を演じ続ける難しさや奥深さ、さらに進化しようとしている演じ手の覚悟をひしひしと感じました。

今回は舞台俳優オタクとして、YouTubeやSNSで推し活の様子やオタクの実情を発信している「ぽろちょこ」さんに、お話を伺いました。

【話を聞いた人】

ぽろちょこさん

アニメと観劇と推しが生きがいな、どこにでもいるオタク社会人。YouTubeにオタ活系の動画をあげている。

YouTube:https://www.youtube.com/@days4091/
Twitter:https://twitter.com/polochocodays
Instagram:https://www.instagram.com/polochocodays/

画像1: www.workit.jp
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一度は離れた推しに再会し、成長した姿に惹かれる

画像: 一度は離れた推しに再会し、成長した姿に惹かれる

今推してるものはたくさんあるんですが、一番の推しは加藤和樹さん(以下、和樹さん)と声優の畠中祐さんです。

和樹さんのことを知ったのは10年以上前、ニコニコ動画でミュージカルをおもしろおかしく空耳で書いた「空耳ミュージカル」っていうのが流行ったんですよ。その中にあった『テニスの王子様(以下、テニミュ)』が面白くて。後日本物のテニミュをDVDで観て、加藤和樹さんにハマっていきました。学生時代はあんまりお金も時間もなかったから、推し活も和樹さんが出してたCDを聴く、たまに気ままに現場に行く感じでした。実は社会人になるまでちょっと和樹さん推しから離れてたんですけど、社会人になってからお金とか時間的な余裕もできたので、久しぶりに和樹さんの現場に行ったらめっちゃ楽しくて。やっぱりこの人すごいってなって、3年とか4年ぐらい前から舞台とかライブとか行くようになりました。和樹さんはパフォーマンス力が段違いですごいのに、年々成長していく姿に毎回驚かされて今も刺激を受けてます。あとアラフォーで、10年経っても顔がきれいで美しく年を重ねてる方だな、自分もそういうふうに年を取りたいっていう憧れもある方ですね。

畠中さんのことを知ったのも10年前、中学生ぐらいのときにアニメの『遊☆戯☆王ZEXAL(ゼアル)』っていうのを観たのがきっかけです。すごく独特な、いい意味で声優さんらしくないお芝居をされる方で、自分とそんなに年齢も変わらないのにすごいなあってずっと印象に残ってたんです。最近アーティストとして結構有名になってきたからより好きになり、現場に行き始めてハマっていった感じですね。リアルで生々しく、表情豊かなお芝居だったり歌唱だったりをされるので、見ていてすごく飽きなくて、一緒に成長していきたい、ずっと応援していきたいなって思わせる表現者さんです。

オタ活十人十色、楽しみ方はそれぞれ

画像: オタ活十人十色、楽しみ方はそれぞれ

オタ活ではライブとか現場に行くのはもちろん、遠征先で美味しいものを食べつつ推しのグッズとカフェ巡りもします。最近はなかなか時間が取れなくてできてないんですが、オタ活手帳っていうのをつけたり、たまにオタク友達同士でライブ前に円盤鑑賞会とかしますね。コロナ禍になったばかりの頃はリモートでの朗読を聴いたり、ライブの配信を観たりしてましたね。和樹さんの場合、「誰ひとり感染者を出さない」という強い想いでしっかりと感染対策をとってライブをしてくれたので、おかげでコロナ禍のしんどい時期でも何とか生き延びました。

生身の人間を推す良さはたくさんあります。推しの成長を見られること、現場で歌ったり演じたりする推しが、本当に存在するというワクワク感を味わえること、推しと話せる機会が得られて人間性にも触れられるところです。ミュージカルやコンサートって、数週間とか数ヶ月かけて公演を行うので、演者さんたちのコンディションやアドリブ、演奏も日によって違うし、初日と千秋楽でもやはり違うのが面白い。1日たりとも同じ公演はないので、期間中に成長していく推しを観るために何度も劇場やライブ会場に足を運ぶ人も結構多くいるくらいです。色々な応援の仕方がありますが、私は時間や体力面、経済面などを考慮した上で“自分の無理のない範囲でのオタ活”をしています。今後も長く楽しみたい趣味なので、無理して辛い思いをしたくないのです。オタ活は義務じゃないですからね。

「可愛い、映える」よりも自分らしく

推し活の思い出を残した動画をあとで編集するのも結構楽しいです。YouTubeを始めたきっかけは、とあるV系バンドを追ってる人のVlogを観たことです。オタ活を楽しみながら動画に残してるし、しかもすごくお洒落で可愛いくて。そんなふうに自分も撮りたいなと憧れて始めました。

最初は自分の思い出作り、趣味としてやってればもしかしたら見てくれる人がいるかも、あわよくば収益化できれば…と始めたんですけど、いざやってみたら可愛い画を撮るのって結構難しくて。編集した動画を観ても何かリアルな感じが強くなってしまい、『可愛い、映える画を撮るには、“リアルな自分らしさ”を消さないといけないのでは?』となんとなく違和感を覚えたんです。“憧れ”と“リアル”のギャップに迷う時期もありましたが、動画投稿を続けているうちに、『オタ活は私の生活の一部なんだから、自分らしさを表現していいんじゃないかな?』って思えるようになって。その結果、オタ活の参考になることとか、オタクの人が気になるお金やメンタルの面、オタ活のリアルな部分にフォーカスする今のスタイルに落ち着きました。

自分を動かす力、仕事へのモチベーションにもなる推しの存在

画像: 自分を動かす力、仕事へのモチベーションにもなる推しの存在

前の職場は平日仕事して土日休むのではなく、会社が出勤日と休日を指定していたんですよ。入社した2020年はコロナ禍になったときで結構現場が飛んだので、有給を使えば行きたい現場には何とか行けててしんどい仕事もどうにかこなせてたんです。でも2021年になると、感染対策をしながらではあるけどライブとかミュージカルが少しずつ開催されるようになって。行きたい現場がどんどん増えてきてるのに、会社が指定した出勤日に、行きたい現場が重なってしまったら、泣く泣く諦めざるを得ない。そうしたことが増えるにつれて、だんだん仕事が辛くなってきちゃって。それで、土日休みで在宅勤務とか割と自由が利く今の仕事に転職することを決意しました。転職のために勉強しなきゃいけなくて正直大変だったんですけど、全ては推し活のため。勉強や転職につながってるし、推しにはすごく支えられたなというか、全ての原動力になってるのを実感しましたね。

推し活をきっかけに始めたYouTubeが、割と今の仕事に繋がってます。未経験からの転職だったので、面接で会社の人に「YouTubeチャンネル持ってます」ってアピールしましたね。それから現場に行く予定が週末にあると、仕事のことを考えながら推し活をしたくないので、金曜までに何とか終わらせようと平日の仕事をめちゃくちゃ頑張ってます。

そういう意味では、推し活が仕事を終わらせるモチベーションになってますね。転職したばかりで全然タイムマネジメントできてないし出勤もしてるんですけど、いずれは平日にすぐに現場に行けるように在宅勤務したいっていうモチベーションで今仕事を頑張ってます。

そうそう、仕事とは違うんですが推しのこと、人生のこと、趣味のことも話せるお友達ができたのも、推しのおかげだと思っています。社会人になるとどうしても人間関係って閉鎖的になるし、会社の人とは仕事でしか関わらないので。

和樹さんのオタクは和樹さん自身もアラフォーなので、両親ぐらいの年齢の方が多くて。ありがたいことに「敬語使わなくていいよ」と言ってくださる方もいて、人生相談とか割とフラットな感じで話せてます。逆に畠中さんのオタクは自分より年下の子の方が多くて、教わった流行をYouTubeの動画に取り入れたこともありました。そういうオタク友達とは現場で会えば挨拶しますし、最近ようやくコロナ禍が落ち着いてきたので、ちょっとずつご飯やお茶に行く機会を持つようになりました。推しを介していろんな人と関われてること、フラットに話せる関係のありがたさを実感しています。

推し活とは人生の糧である

画像: 推し活とは人生の糧である

「推し活って何ですか」って聞かれたら、やっぱり人生の糧かなって思ってて。転職活動を頑張れたこともそうだし、学生時代は推しの曲だとか、テニミュの曲とか元気づけられる曲を聴いて受験やテスト勉強を乗り切ってたし、この日に現場に行けるから仕事や勉強を頑張るとかもそうです。世知辛い人生を生きるモチベーションを保つために必要不可欠ですね。推しに会うため、コンテンツを摂取するためにいろんなことを頑張ることができているんだなと実感します。

ただ一方で、推し活にあまり全力を注がないよう気をつけています。推し活は人生の糧で、人生そのものでもあるんですけど、推し活だけに人生が縛られるのは嫌だなと常々思っています。推し活にのめり込んでしまうと、気づいたときにはいろんなものを失ってるし、心も体もあまり良い状態とは言えなくなってることもあると思います。オタクだけどそういう状態にはなりたくないなと。豊かな人生にするためにも、推し活を軸に仕事や交友関係を広げつつ、日々推し活に励んでいます。

また、オタ活を通して知らない土地を訪れたり、新しいモノ、コトに出会いたいです。

地方って強い思い入れがある場所以外は何らかのきっかけがない限り、旅行ではなかなか行かないと思うんですよ。でも推しが行った場所だと、興味を惹かれて旅行することも結構多くて。例えば、推しが行ったお店に自分も足を運んで美味しいものを食べたり、好きなコンテンツのロケ地になった場所に赴いて聖地巡礼をしたり。オタクには、推しと同じことをしたり持ち物とかをお揃いにしたり、同じ空気を吸いたいっていうのがある気がして。なので今後は行ったことのない場所に行ってみたいし、いろんな場所やお店との新しい出会いをどんどん追求していきたいですね。

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