生活するうえで欠かせない「コミュニケーション」。日々の暮らしはもちろんのこと、仕事をするうえでも必ず必要なものです。だからこそ、そこでストレスを抱えてしまう方も少なくないのではないでしょうか。ストレスは小さいものから大きいものまで様々ありますが、「これくらいなら」「大丈夫」と我慢したり見過ごしたりしてはいませんか?それが続くとメンタルの調子を崩してしまいかねません。では、どのように人とコミュニケーションを取り、自分の心を守ればよいのでしょうか?今回は、臨床心理士である田所さんに職場でのコミュニケーションについて、「メンタルを崩さない」という観点から教えていただきます。

田所 俊作さん
臨床心理士・公認心理師
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心地の良いコミュニケーションの重要性とポイント

一日の中で多くの時間を使う仕事。だからこそ、仕事を円滑に進めるだけでなく、職場での居心地をよくするためにもコミュニケーションは不可欠です。さらに、メンタル的な観点においても、孤立を防ぐため考えが偏らないためにも重要だといいます。そんな職場でのコミュニケーションにおいて、どのようなことが大切なのでしょうか。

田所「『話したい』という気持ちの根本は、『居心地がいいから』なのではないかと思います。となると、相手が心地良くなるような話し方をしたり、自分自身が楽しそうに話したりすることが重要です。そうすると『私といて楽しんでくれているみたい』と相手も感じ、次のコミュニケーションにもつながります。」

同僚か上司かなどの相手にもよりますが、心地の良いコミュニケーションを取るために押さえておきたいポイントがあります。当たり前のことのように思うかもしれませんが、日々意識できているでしょうか?これを機に改めて確認し、振り返ってみましょう。また、意識できていなかった点は今日から是非取り入れてみましょう。

画像: 心地の良いコミュニケーションの重要性とポイント

コミュニケーションを取りづらい相手にはどう対処すべき?

職場でもプライベートでも「この人ちょっと苦手かも」「気が合わない」「話しかけづらいな」という人はいるものです。適度に距離を取ることは大切ですが、そうもいかないときもありますよね。そのような人に対してはどのように対処すればよいのでしょうか。

田所「前提として、必要以上に無理にコミュニケーションを取ろうとする必要はないと思います。かといって、変に避ける必要もありません。業務連絡はもちろん必要ですが、『ちゃんとコミュニケーションを取らなきゃ』という気持ちがあるなら、少し緩めてもよいと思います。

苦手にもいろいろな種類があると思いますが、パーソナリティ(性格)上の問題であることも往々にしてあります。そのため、そういう人の特徴や傾向を知識として知っておくと、少し気持ちが楽になったり、特性に応じた対処ができたりするかもしれません。

例えば、高圧的でパワハラっぽい人や、高い水準を求めてきてそれが達成できないと叱責するような人がいたとします。こういう人は、おそらく支配欲が高くて共感性が低く、人と対等な関係を作れず、思い通りにいかないとすぐに憤慨してしまう傾向にあります。臨床診断名としては『自己愛性パーソナリティ障害』などと言われます」

こうしたパーソナリティ障害は10種類ありますが、そのうち日常の中で特に多いのが「自己愛性パーソナリティ障害」と「境界性パーソナリティ障害」だといいます。

●自己愛性パーソナリティ障害

田所「自己愛性パーソナリティ障害の人は自分の能力を過大に評価している傾向にあり、自分は特別な存在だから何を言っても、誰を利用しても構わないと思っているという特徴があります。そういった特性から、みんなを怖がらせて服従させることで、自分が思い通りにできる環境を作ってしまうのです。

ただ、そういう方はそうなってしょうがない過去を持っているケースがよくあります。例えば、幼少期に親から厳しいしつけを受けてきて、テストで百点を取らないと殴られていたり。そして、親が自分にしていたように部下にも接してしまったり、自分がやられてきたことの腹いせになっていたりすることもあります。また、自分にも厳しいことが多く、それを相手にも強要してしまうこともあります。

こういう場合、その人の言うとおりにすることで自分の身を守ることが多いと思いますが、それでは自分がサンドバッグのような状態になってしまいます。それではただ辛いだけなので、その人の背景を知ったり慮ったりすると少し気持ちが楽になるかもしれません。関係性にもよりますが『どうしてそんなに厳しいんですか?』と正直に聞いて、その人の背景を聴いてみるのも一つの手でしょう。

また、そういう人たちは認められたいという気持ちがかなり高いはずです。変に持ち上げる必要はないですが、『○○さんって本当に仕事をテキパキしますよね』と褒めて認めてあげると、コミュニケーションに少し変化があるかもしれません」

●境界性パーソナリティ障害

田所「境界性パーソナリティ障害の人は見捨てられることへの恐怖が強く、わざと周りを心配させるような行動をとって気を引いたりすることがあります。そして、『大丈夫?』などと周囲から反応をもらえることで安心するのです。

境界性パーソナリティ障害の方は気分の波が激しく、感情が不安定な特徴があります。相手が感情的になった時は感情的に否定せず、いつもと変わらないくらいの一定の態度で接することを心がけましょう。

また、親身になりすぎずに一定の距離を保って接することも大切です。そうすることで、相手に過度に期待を抱かせることなく、見捨てられることに対する不安を防ぐことにつながります」

心が辛くなったら「セルフモニタリング」を

コミュニケーションの中で嫌な思いをしたり、コミュニケーションを頑張って心が疲れてきてしまう時もあるでしょう。そういう時は自分の心にゆとりがなくなりがちです。そうなると、人はネガティブにしか物事を考えられなくなってしまうといいます。

田所「生き延びるための本能のようなもので、『これ以上ダメージを受けたらもうダメだ』という状態だからこそ、自分を傷つけるものがほかにないかを確認してしまうんです。本来であれば起こらないようなことを考えて不安がってしまう。だから、気分が悪い時に考え事をするとネガティブになってしまい、非常に偏った考えになってしまいます。

自分の主観で考えると、どんどん悪い方向へと広がっていってしまいます。だから、自分がどう思っているかを客観的に見る必要があるのです。『これはしたくない』など、自分の“思考”は分かっていても、自分の“感情”を見つめずにどうにかしようとしたり我慢したりしている人が多くいます。何が苦しいのか、自分の感情を特定して、それに気づいて必要な対処を判断するために客観視が必要なのです

客観視をするために田所氏が提案する方法が「セルフモニタリング」です。

画像1: 心が辛くなったら「セルフモニタリング」を

(1)ストレスの元を特定する
職場環境や人間関係など、どこからストレスを受けているのか、ストレスの発信源を特定する。例えば、仕事量が許容を超えていて疲れているのか、ある特定の人とうまくいっていないのか、給料が低すぎてうんざりしているのか…。何から、どんな時にストレスを感じているのかを特定します。

(例)猫アレルギーを持っているけれど、猫カフェで働いている人の場合
「アレルギーによる鼻水、目のかゆみ」「体調不良」

(2)ストレスの元に対して、自分がどう捉えているかを認識する
ストレスの元に対して、自分がどう思っているか、どう感じているかを認識します。

(例)猫アレルギーを持っているけれど、猫カフェで働いている人の場合
「このままだと体調が悪くなる一方だ」「でも、尊敬している人に誘われて入ったから辞めにくい」

(3)行動を認識する
実際自分が今どのような行動をしているかを認識します。

(例)猫アレルギーを持っているけれど、猫カフェで働いている人の場合
「マスクをして無理やり働いている」「猫アレルギーを言わずに働いている」

画像2: 心が辛くなったら「セルフモニタリング」を

田所「これらを紙などに書き出してみましょう。紙以外でも、自分が分かればやり方は何でも問題ありません。ストレス場面と思考だけでもよいと思います。このように書き出して眺めると、人のことを見ているようで冷静になってきて「自分は何やってるんだ」「こうすればいいじゃん」「これは我慢すべきじゃないな」と客観的に見えてきます」

ストレスから逃れられない時に、忘れないでほしいこと

セルフモニタリングをすることで「こうすればいいじゃん」と判断・行動ができればいいのですが、客観視しても逃れられないストレスもあるでしょう。例えば、人間関係はうまくいっていないけれど、給料が良く、守るべき家庭もあるからすぐにやめるわけにもいかない場合といったことも往々にしてあります。そのような時にどうすればよいのでしょうか。

田所「当たり前のことですが、ガス抜きや気晴らしする方法をしっかり取り入れましょう。当たり前のことなのに、これをしていない人が非常に多いんです。辛い時は好きなことを忘れてしまったり、気力がなくなってしまいますから。だからこそ、意識的にストレスを抜くことが必要です。

人に相談したり、一人カラオケに行ったり、岩盤浴に行ったり、おいしいものを食べたり、旅行をしたり…。何をすればガス抜きができるかを把握し、無理のない程度に意識的に実行しましょう。そうすると耐えられる時間が長くなります。ただ、耐え続けるのも良くないですし、一時的なものなので、その先を考えることは必要です。これからより良い環境、状態を考えるためにも、ガス抜きの時間をしっかり取りましょう」

まとめ

今回は、臨床心理士である田所さんに、職場でのコミュニケーションについて教えていただきました。日々、そして人生の中で長い時間を使う仕事だからこそ、コミュニケーションは大切にしたいですよね。しかし、それと同時に自分の心を守ることもとても大切です。自分の心を守れるのは自分だからこそ、客観的に見たりガス抜きしたりすることを忘れないようにしましょう。

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